店の中にいる子ども

 広島駅の近くに地味なラーメン屋があった。最初に入った時、客は自分だけだった。ラーメンとチャーハンのセットを頼んだ。ラーメンは主人が作り、チャーハンは奥さんが作った。味はともかく、ラーメンもチャーハンも量が少なめで、当時の私には少々物足りなかった。L字型のカウンタの隅の方で、娘とおぼしき子どもが二人でおとなしく遊んでた。小学校に上がる前くらいの年齢だ。うるさくしてはいけないと言われているのだろう、こそこそ話で楽しそうに声を押し殺して笑っているのだ。広島弁で言うと「つばえている」感じだ。

 しばらく経ってその店に行ったが、相変わらず客は私ひとり。娘たちの姿はなかった。そしていつしか、その店そのものもなくなっていた。